作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMの音楽番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。9月25日(日)の放送は「村上RADIO ~村上春樹presents山下洋輔トリオ再乱入ライブ」と題して、7月12日(火)に早稲田大学大隈記念講堂で開催された一夜限りの特別ライブをダイジェストでオンエア。この記事では、山下さんとのトークパートを紹介します。
村上さんが企画し、2022年7月12日(火)に早稲田大学で開催された「村上春樹presents 山下洋輔トリオ 再乱入ライブ」(TOKYO FM/早稲田大学国際文学館 共催)。このライブは、学園紛争の中、新進気鋭のジャズ・ミュージシャンだった山下洋輔さんが、バリケード封鎖された早稲田大学キャンパス内で、大隈講堂から教室にピアノを運び込んで敢行した伝説のライブを約半世紀の時を越えて再現したものです。
司会をつとめたのは、ミュージシャンの坂本美雨さん。演奏は、この日のために結集した山下洋輔トリオ。山下洋輔さん(ピアノ)、中村誠一さん(テナーサックス)、森山威男さん(ドラム)という編成でした。
ゲストとして作家の小川哲(おがわ・さとし)さん、編集者・写真家の都築響一(つづき・きょういち)さん、ジャズミュージシャン・菊地成孔(きくち・なるよし)さんが登場。村上春樹さんとのトークを繰り広げました。
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「ミナのセカンドテーマ」
山下:早稲田の皆様にお礼を申し上げます。特別な場所です、早稲田大学は。
それでは、私が50年前に作った曲で、いちばん最初の私たちのLP、アルバムのテーマ曲になりました「ミナのセカンドテーマ」。お聴きください。
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山下:ありがとうございます!「ミナのセカンドテーマ」、ひさびさに、50年ぶりに3人でやりました。
それでは次の曲ですが、これも50年前にできて、当時から必ずやっていた「グガン」です。
お楽しみください。
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山下:(拍手を聴いて)終わりましたね。みなさん、どうもありがとう!
トーク・セッション2
山下:おつかれさまでした。
村上:素晴らしい演奏でした。
山下:こんなことを50年前からやっているわけです。
村上:でも、50年ぶりに再会して、一発で決まるんですね。
山下:はい、まったく同じというか、同じ気持ちになって一発でできるんです。そういう音楽をつくってきたので。
村上:初歩的な質問をしていいですか。小節の数って数えてます?
山下:そんなものはありません(会場笑)。そういうものが嫌でフリージャズをやっているわけです。オーソドックスな正当的なジャズは、小節とコード進行を守ったうえでアドリブをする。それがどれくらいうまいかを聴く人は見ています。
村上:山下さんの演奏でいつも感心するのが、手癖(てくせ)がないことで、いつも新鮮な演奏なんです。
山下:嬉しいですね。僕は手癖ばかりかと。肘癖は取れないですけど(笑)。
坂本:肘が弾く瞬間の、引き金のようなものはあるんですか。
山下:そうすね、気持ちが高揚して「じゃーん」と、ここで音がクラスターになっても音楽的に大丈夫だとどこかで考えていますね。願わくば、そのときドラムが見ていてくれて、バシンと合わせてくれたらといいなと。
村上:ドラムソロからピアノソロに移るときの打ち合わせはないんですね。合図もなしで?
山下:僕が、とにかく音楽的でも何でも、とにかく何かをつかんで、到達して、「もういいや」「やったー」となれば、一緒にやっている演奏者は「あいつはイったな」とわかる。それで交代する。顔つきで「おれは終わるよ」と。それは誰だってわかる。
村上:フリージャズって生で聴いたほうが面白いですね。昔、ジャズ喫茶で難しい顔して一所懸命に聴いてたけど、疲れるんですよ。
山下:フリージャズのほうが高級な音楽という誤解があってね。菊地くんがさっき言っていたけど、最後の究極の難しい良い形がフリージャズだというのは、ちょっと違うんです。
村上:山下さんのフリージャズは物語性がありますよね。セシル・テイラーは解析的ですが、山下さんのは話が進んでいくようで楽しいです。
ところで、中上健次さんが運んだというのは本当ですか?
山下:中上さんは本当だと思います。画面に残っています。20人ぐらいでグランドピアノは担げる。でも、中上さんがそう言ったあと、いろんな作家が「俺もあそこにいた」と言い出して……(会場笑)。
村上:立松和平(たてまつ・わへい)さんが、その乱入ライブをテーマに「今も時だ」という小説を書きましたよね。小説では、ゲバが起きるわけですが。それは田原総一朗さんが狙った筋書きですよね。
山下:そうですね。立松和平さんも村上さんと同じ頃に早稲田の学生でしたが、その時はいなかったんです。あとで話を聞いて大変悔しがって、その時の僕の音源を使ってCDを出してくれたのが舞踏家の麿赤兒(まろ・あかじ)さん。立松さんは麿さんと仲がよくて、とにかく残念がってそれで小説も書いてしまった。
坂本:さて、このライブも終わりに近づいていますが、アンコールでもう1曲演奏していただけたらと思います。
山下:いつも演奏する自分の曲があるんです。じつは、すごく偶然なんですが、『ノルウェイの森』の7ページ目に、なんとわたしがいつも弾いている曲のタイトルが出てくるんです。本には、こうあります。
「記憶というのはなんだか不思議なものだ」
この通りの内容を僕は音楽にして弾いているんです。これはある時、アメリカ人のメールフレンドが“Memory is a funny thing”と書いてきた。このフレーズがとても良くて、その場でこの曲を書いてしまったのです。今回、村上春樹ライブラリーに行って『ノルウェイの森』の英語版を見たら、まさしく、“Memory is a funny thing”とあった。
村上:……覚えてないなあ。最初に出てくるんですか(会場笑)。
山下:素晴らしいフレーズ、名言なのに。ほら、ここに書いてあるでしょ。主人公が18年の歳月を思い出すシーンで、この文章が出てくるんです。「記憶というのはなんだか不思議なものだ」と。英訳を調べたら、たしかに“Memory is a funny thing”とある。僕の心を打った英語のフレーズと同じです。そのフレーズを頼りに、僕が作った曲をやります。
坂本:それでは、山下洋輔さんの曲で最後を飾っていただきましょう。
山下:最初のメロディが“Memory is a funny thing”と聴こえればありがたい。
「メモリー・イズ・ア・ファニー・シング」
村上:いまかかっているのが、山下洋輔さんがライブの最後にソロで演奏してくれた曲“Memory is a Funny Thing”(「メモリー・イズ・ア・ファニー・シング」)です。
当時の学生運動についてはいろんな評価があると思います。良い面もあり悪い面もあった。でも、その底にあったのは理想主義だったと僕は思うんです。そういうものが1つの力として存在し作用していました。一時はその力が世界を揺さぶっていました。そのことは忘れてはいけないと僕は思います。
最後になりましたが、今回素晴らしい演奏を聴かせてくれたトリオの皆さんに改めてお礼を言いたいと思います。ピアノの山下洋輔さん、サックスの中村誠一さん、ドラムズの森山威男さん、どうもありがとうございました。
<演奏後>
山下洋輔トリオのコメント
山下:いやあ、終わって大満足です。素晴らしい経験をさせてもらいました。ジャズという音楽にしかこういうことはできない。自由で自分勝手で、それでも合わせることができるんですよ。理想の形ですね。若い人が、「あいつら一体なにやってんだ」と考えてくだされば、またとない良い伝わり方だと思います。と考えてくだされば、またとない良い伝わり方だと思います。
中村:うーん、久しぶりにやって結構難しかったですね。いろいろ企んできたんですけど、そうだなあ、あと5、6回やったら感じがでてくるんじゃないですか(笑)。楽しかったです。
森山:やる前は、いつでも僕は緊張感からなんでしょうけど、やる気を失うんですよ。それで、「なんとかやる気にさせなきゃ」と思う。でも、終わった途端に「またやろう」と思うんです(笑)。1回の演奏で、ずいぶん変わりますね。好きなことをやっていいというのはどんなに喜びか。山下さんが50年前の顔をしていましたよ。
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<番組概要>
番組名:村上RADIO ~村上春樹 presents 山下洋輔トリオ再乱入ライブ~
放送日時:9月25日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹、山下洋輔トリオ(山下洋輔(p)、中村誠一(ts)、森山威男(ds))、坂本美雨、小川哲、都築響一、菊地成孔
番組Webサイト:
https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/