青木源太と足立梨花がパーソナリティをつとめ、暮らしに役立つ情報や気になるトピックを深掘りしていくTOKYO FMの番組「青木源太・足立梨花 Sunday Collection」。10月2日(日)の放送では、経済産業省 原子力発電所事故収束対応室 室長補佐の西嶋健人(にしじま・けんと)さんに、「福島の復興へ向けて 正しく知ろう 廃炉とALPS(アルプス)処理水」をテーマに話を伺いました。
(左から)青木源太、西嶋健人さん、足立梨花
◆“廃炉”なくして福島の復興は進まない
東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故から11年6ヵ月が過ぎました。これまでに福島の復興は一歩一歩進められ、2013年8月から2022年3月にかけて避難指示区域の面積や対象人口は、それぞれ3割以下まで減少しています。また、帰還に向けた環境整備なども着々と進んでいます。
例えば、一部区間が不通となっていた常磐線は、2020年3月に全線運転再開。また、一部地域の避難指示が解除された浪江町(なみえまち)には、昨年3月に「道の駅なみえ」がグランドオープンし、10年ぶりに浪江町で事業を再開した店もあります。
こうした福島の復興に欠かせないのは、福島第一原子力発電所が地域のみなさんや環境への放射性物質によるリスクを低減させるための作業、いわゆる“廃炉”です。
現在の原子炉について、西嶋さんは、「状態が安定しており、(福島第一原子力発電所事故から)再び事故が発生する可能性は限りなく低い状況。しかし、みなさんが安心して暮らせる環境を取り戻すため、原子炉施設の解体を進めていく必要がある」と説明します。
廃炉を進めるためには「ALPS処理水」の処分が必要不可欠です。ALPSとは多核種除去設備の通称で、ALPS処理水は、ALPSなどを使って日々発生する放射性物質を含む汚染水を浄化して、トリチウム以外の放射性物質を安全基準を満たすまでに浄化処理した水のことです。
また、トリチウムとは水素の仲間で、雨水や水道水など私たちの身の回りにも広く存在している物質です。宇宙から降り注ぐ放射線によって、自然界のなかでも常に生成されています。放射線を発しますが、それはとても微弱で紙1枚で防げる程度です。
そのトリチウムを含んだALPS処理水の処分が、廃炉を進めるためになぜ必要不可欠なのかというと「福島第一原発には、このALPS処理水を貯蔵する巨大なタンクが設置されています。その数は現在1,000基を超えていて、今後、廃炉に必要な設備を建設するスペースを圧迫する恐れがあるから」と西嶋さん。また「災害の発生時における倒壊のリスクがある」「大量のタンクの存在そのものが風評の原因になる」といった声があるのも確かです。
ALPS処理水の取扱いは、これまで6年以上にわたり専門家が公開の場で議論をおこなってきました。その結果、国内外での実績の有無やモニタリングの容易さなどを考慮し、海洋放出が最も現実的な手段であると評価されました。こうした専門家の評価に加えて、繰り返し多くの場での説明や意見交換を踏まえて、政府は2021年4月に、安全性の確保と風評対策の徹底を前提に海洋放出をおこなう方針を決定しました。方針の決定から2年程度後を目途に、海洋放出をおこなうこととしています。
実は、トリチウムを含んだ液体廃棄物は、事故があったから出たものではなく、原子炉を稼働させると必ず出るもので、世界中のさまざまな原子力施設では、日ごろから安全基準を守ったうえで、トリチウムを液体廃棄物として海洋や河川などに、または換気などに伴い、大気中へと排出しています。
放射性物質が含まれた液体廃棄物が、海洋へ放出されていると聞くと、何らかの影響があるのでは? と思う方も少なくありませんが、西嶋さんは「放出をおこなっている世界各国の原子力施設周辺からは、トリチウムが原因とされる影響は見つかっていません」と強調します。
では、ALPS処理水がどのように海洋放出されているのかというと、放出する前に海水で100倍以上に薄めて、トリチウムの安全基準を大きく下回る濃度にしてから処分しています。その際の濃度は、日本のトリチウム安全基準の40分の1未満となり、国の基準を大幅に下回ります。また、この数値はWHO(世界保健機関)の飲料水基準のおよそ7分の1に値します。
例えば、病院でCT検査を受けたり、食事をしたり、飛行機で移動したり、歯のレントゲンを撮ったり……私たちは日常生活のなかで放射線の影響を受けています。
放射線の人体への影響度を表す単位はシーベルトと言い、東京~ニューヨーク間を飛行機で往復すると0.11~0.16ミリシーベルトの影響があるとされています。これと比較して、ALPS処理水を海洋放出した場合の1年間に受ける放射線の影響は、放水地点の周辺海域を利用する頻度が高い人でも、わずか0.00003~0.0004ミリシーベルトです。日本人が日常生活で自然に受ける放射線の影響は、1人あたり年間2.1ミリシーベルトのため、これと比べても影響は極めて小さいと言えます。
西嶋さんは、「トリチウムは体内に入っても蓄積されることはなく、水と一緒に体外へ排出されるので、(数十年後に影響が出るなどの)心配もいりません」と補足します。原子力について高い専門性を持つIAEA(国際原子力機関)も、海洋放出は科学的根拠に基づくものであり、国際慣行に沿うものと評価しているとし、そのうえで「海洋放出の実施にあたっては、繰り返し現地を訪れてIAEAの安全基準に則っているかどうか、厳しくチェックをおこなう予定です」と話します。
そして、海洋放出の前後で海洋モニタリングをおこない、「海の水質に問題がないかをしっかり確認して、安全確保に万全を期します。また、水産物についてトリチウムを対象としたモニタリングを新たに実施する予定です。モニタリングにはIAEAなどの第三者機関が関与するほか、地元自治体や漁業者といった方々の立ち会いの機会を設けるなど、透明性を確保します。また、将来的にはモニタリングの結果をみなさんが簡単に確認できるWebサイトも立ち上げていく予定」と見通しを語ります。
◆風評を生じさせないために…
ALPS処理水の処分にあたり、風評を生じさせないための取り組みの1つとして、10月から「海水で希釈したALPS処理水」でのヒラメやアワビの飼育試験を開始。また、科学的根拠に基づく情報を国内外に発信するべく、説明会などの広報活動にも力を入れています。
昨年の4月以降から今年の8月までに700回以上も説明会などを実施しており、「風評を生じさせないためには、地元の方だけではなく、全国の方々に正しい情報を知っていただかなければなりません。そのためにも、説明会などに加え、さまざまなメディアを通して多くの方へ情報をお届けしていきたい」と力を込めます。
最後に、西嶋さんは「福島の復興は、福島だけの問題ではありません。全国の方々に日本の課題として向き合い、廃炉やALPS処理水の海洋放出について、多くの方に関心を持っていただくとともに、正しい情報を発信していきたいと思います。福島の復興に向けて全力で取り組みます」と思いを語りました。
今回の話に、足立は「私も“すごく不安だな”と思っていたことが、説明を聞いたことによって意外と“大丈夫かも”と思えるようになった」と率直な感想を述べます。なかでも「飲料水の基準よりもさらに低い濃度で(ALPS処理水が)海洋放出されるというところに、すごくビックリしました」と話します。
青木は、西嶋さんの最後の言葉「福島の復興は福島だけの問題ではない」に着目。「もともと(福島第一原子力発電所で)発電していたときの電気は、東京に住んでいる私たちも使っていましたので、福島だけの問題として捉えるのではなく、全国の方々に日本の課題として捉えて、廃炉に注目してほしい」と話しました。
(左から)青木源太、足立梨花
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聴取期限 2022年10月10日(月・祝) AM 4:59 まで
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<番組概要>
番組名:青木源太・足立梨花 Sunday Collection
放送日時:毎週日曜 7:30~7:55
パーソナリティ:青木源太、足立梨花
番組Webサイト:
https://www.tfm.co.jp/collection/